Product Development — Case Study / Experience Translation
Individual Development — 木下スタジオ / 木下貴博(滋賀・琵琶湖)
— Origin / このプロダクトの問い
このプロダクトは
「なぜ、デジタルには本を"所有する"喜びがないのか?」
という問いから始まりました。
Kindleは読書を便利にした。しかし「本棚が語る人格」をデジタルは奪った。
01 — Problem
Kindleを使っている友人の「本棚」を見たことがあるか?——存在しない。デジタルで本を読むことは、「本を読んだ」という行為を消費に変えた。ページをめくる感覚も、背表紙を眺める豊かさも、積読の罪悪感も——すべてがデータの海に溶けた。
物理の本棚には、語りかけてくる力がある。デザイン書の隣に哲学書が並ぶ、その並びに読んだ人の思考回路が宿る。本棚は「読んだ本のリスト」ではなく、「その人の人格の外化」だ。しかしデジタルはそれを持っていなかった。
— 課題 01
所有感がない。Kindleの蔵書一覧は「リスト」だ。本棚の佇まいがない。並べた本が互いに語りかけあう空間がない。本を「持っている」実感が消える。
— 課題 02
蒐集の喜びがない。「この本を棚に加える」という行為がない。本を手に入れる喜び——それはアルゴリズムが「次はこれ」と差し出す体験とは根本的に異なる。
— 課題 03
本棚が思想を語らない。Goodreadsは読んだ本を管理するツールだ。しかし「この本と、あの本が隣に並んでいる意味」を表現する場所ではない。蔵書の文脈が消える。
— 課題 04
発見の仕方が画一化された。Amazonのレコメンドエンジンは「似た本」を差し出す。しかし本との出会いには、意外性と偶然性がある。自分の本棚を眺めながら発見する体験が失われた。
02 — Insight
本棚が語りかける——それは「本の内容」ではなく「選んだ自分の思考回路」だ。150冊の本が並ぶとき、その並びはその人の関心のマップになる。Kinoshita Libraryは、この「本棚の人格性」をデジタルに取り戻すために設計された。
窓から差し込む光が本棚を照らす——そのシミュレーションを実装したのは、「本棚は場所だ」という確信からだ。場所には光があり、時間があり、佇まいがある。Open Library APIで世界中の本を探索し、Gemini AIが読書体験をナビゲートする。しかしすべての設計の核心は「この本棚が自分のものだ」という実感だった。
— Persona Design
3ペルソナの共通課題:「デジタルに本棚の"場所感"がない」。AIレコメンドと窓の光演出がそれぞれの課題に応答する。
— Customer Journey
「本棚が自分を語る」という到達点に向けて、出会いから整理まで全ステップに体験が設計されている。
03 — Experience Strategy
Experience Strategyの核心は「本棚は場所だ」という命題だった。本棚には4つの体験軸がある——所有感(Ownership)・発見(Discovery)・蒐集(Curation)・親密性(Intimacy)。すべての設計判断がこの4軸に準拠した。
— 01
OWNERSHIP
「この本は自分のものだ」という実感。棚に並べる・並び替える・光を当てる——所有の儀式が本との関係を深める。
— 02
DISCOVERY
Open Library API+Gemini AIで「意外な本との出会い」を設計する。アルゴリズムではなく、自分の棚の文脈から次の一冊が生まれる。
— 03
CURATION
本を並べる行為=思考の整理。ドラッグで並べ替えるとき、読んだ人は無意識に自分の知識地図を更新している。
— 04
INTIMACY
窓の光シミュレーション。本棚は時間によって表情を変える。光は空間と本との親密な関係を演出する最小の装置だ。
— Brand Experience Framework
Vision → Experience Axes → Touchpoints → Design の4層構造で「本棚という場所」をデジタルに設計した。
04 — Solution Design
Kinoshita Libraryは1ファイルのHTMLで完結する。外部ライブラリなし、ビルドなし、サーバーなし——ブラウザだけで動く。それが「所有感」の技術的表現だ。誰かのサービスに依存することなく、本棚は自分のものとして存在する。
— Open Library API
Open Library APIにより数百万冊の本を検索可能。ISBNから表紙画像を自動取得し、背表紙として棚に並べる。物理本棚と同じ密度の情報が、デジタルに宿る。
— Gemini AI Integration
Gemini AIが自分の蔵書リストを読み込み、「この本たちを持つ人が次に読むべき本」を提案する。アルゴリズムではなく、読書体験の文脈から発見が生まれる。
— Drag & Drop Sort
本をドラッグして並び替える。その瞬間、読んだ人は意識的あるいは無意識に「この本とあの本の関係」を考えている。並べ替えは思考の整理行為だ。
— Window Light Simulation
時間帯に応じた窓の光が本棚を照らす。朝の柔らかな斜光、午後の直射光、夕暮れのオレンジ——光の演出が本棚を「データベース」ではなく「場所」に変える。
— Technical Architecture
Frontend
Vanilla JS
CSS Grid
1 HTML File
API
Open Library
Gemini AI
ISBN Lookup
Storage
localStorage
Local-first
No Account
Dependency
ZERO
No Build
No Server
05 — Results
Kinoshita Libraryをリリースしてから、自分の読書習慣が変わった。本を読む前から棚に加え、並び替えながら「この本はどこに置くべきか」を考える。本との関係が変わった——本は消費するものではなく、棚に住まわせるものになった。
150+— 登録蔵書数
Open Library APIから取得した表紙画像付きの蔵書。物理本棚と同等の密度で並ぶ。
1— ファイル数
1つのHTMLファイルで完結。依存ゼロ・ビルドなし・サーバーなし。本棚は完全に自分のものだ。
∞— AI推薦の可能性
Gemini AIが蔵書の文脈を読み込み、「次に読むべき本」を提案する。棚が育つほど推薦の精度が高まる。
— Studio Note
Kinoshita Libraryは、木下スタジオの「体験翻訳論」を最も個人的な形で実装したプロダクトです。デザインの本・写真集・哲学書・音楽論——スタジオの視点で選んだ150冊以上が並ぶこの仮想本棚は、木下スタジオそのものの人格を語っています。
「本棚は人格だ」——この命題が、Kinoshita Libraryの設計のすべてを決めました。