Product Development — Case Study / Experience Translation
Individual Development — 木下スタジオ / 木下貴博(滋賀・琵琶湖)
— Origin / このプロダクトの問い
このプロダクトは
「音楽はなぜ、場所を持てないのか?」
という問いから始まりました。
Spotifyは音楽を"発見させる"プラットフォームだ。しかし「ここにいたい」という感覚が、音楽にはなかった。
01 — Problem
現代の音楽ストリーミングサービスは、再生を「次」へと促し続ける。アルゴリズムが新しい曲を提案し、プレイリストが自動で続く。ユーザーは絶えず「発見」と「消費」のサイクルに置かれる。しかしその過程で、「ここにいたい」という感覚は設計されていなかった。
音楽には本来「場所性」がある。カフェのBGM・誰かの部屋で流れる音楽・雨の夜に聴く特定のアルバム——これらは「消費」ではなく「共にいる」体験だ。しかしデジタル上では、その「共にいる感覚」が設計されていなかった。
— 課題 01
アルゴリズムが「次」を強制する。Spotifyは常に新しい発見を促す。「今の曲とただ一緒にいる」という体験が設計されていない。
— 課題 02
音楽に「場所」がない。プレイリストは曲の集合だが「空間」ではない。誰かの音楽の「場所」に訪れるという概念が存在しなかった。
— 課題 03
音楽制作者の居場所がない。作った音楽をシェアできるが「自分の音楽の場所」を作ることはできない。ストリームではなく、空間として音楽を置きたいというニーズがあった。
— 課題 04
「誰かと聴く」の設計がない。同じ曲を友人と同時に聴けても、誰かの「音楽の場所」に静かに同席するという体験は存在しなかった。
02 — Insight
「Atelier(アトリエ)」というコンセプトと、「中庭(Courtyard)」というメタファーは最初から決まっていた。アトリエは創造の場であり、中庭は誰でも通り抜けられる共有の空間だ。誰かのチャンネルが流れ、あなたはその横に静かに座る——それがAteli.erの体験の核だ。
体験翻訳家として、このズレを設計で揃えることがAteli.erの使命だった。「再生回数を増やす」ではなく「誰かの音楽の横に静かに座る」体験を実装することで、音楽との関係が「消費から共存へ」と変わる。
ペルソナ設計。共通点は「音楽と『共に在りたい』——ただし押し付けられたくない」という欲求。
— Customer Journey
「BGM選びで消耗する」という落下点を、中庭(Courtyard)への接続でゼロにする設計。
03 — Experience Strategy
Experience Strategyの核心は、音楽の位置づけを「発見・消費」から「場所・共存」へ再定義することだった。Ambient(環境音楽的な在り方)・Place(場所性)・Silence(静けさの設計)・Connection(共鳴)——4軸がすべての設計判断の基準となった。
— 01
AMBIENT
音楽はBGMであり、空気だ。主役になるのではなく「そこに在る」。アンビエント的な在り方が、消費ではなく共存を可能にする。
— 02
PLACE
チャンネルは「場所」だ。プレイリストではなく、誰かの音楽空間。訪れる・立ち寄る・CONNECTするという関係性が生まれる。
— 03
COURTYARD
中庭は誰のものでもなく、誰でも入れる場所。他ユーザーのチャンネルに静かに同席するCourtyardが「場所の共有」を実現する核だ。
— 04
CONNECTION
CONNECT機能は「共鳴」の設計だ。いいねではなく、チャンネル同士がつながる。音楽の文脈が人と人を静かにつなぐ。
— Brand Experience Framework
Vision → Experience Axes → Touchpoints → Design の4層構造で「音楽と共に在る場所」を設計した。
04 — Design
Experience Strategyで定義した4軸をUIに実装した。最も重要な設計判断は「アルゴリズムを使わない」こと。次の曲を提案せず、人間が選んだチャンネルのみが流れる。ユーザーは「発見」から解放され、「存在」に集中できる。
— Visual Direction
深夜の青・星・静寂
深い青黒(#0a0a14)と金(#a89060)。星のような点と静かなグラデーション。「夜の中庭」の空気を視覚として実装した。昼に開いても、夜の静けさが続く配色。
— Channel Architecture
チャンネルという「音楽の場所」
プレイリストではなく「チャンネル」。BGMのチャンネル・思索のチャンネル・雨の日のチャンネル——文脈を持った音楽空間として設計した。チャンネルは「場所」であり「名刺」でもある。
— Courtyard Design
中庭:他者の音楽に静かに同席する
Courtyardは他ユーザーのパブリックチャンネルをambient再生する場所だ。選曲しない・探さない・ただ接続する。音楽の「場所」に立ち寄る感覚を実装した。
— Local First Sync
「気づかないうちに同期されている」体験
ローカルストレージにまず書き込み、Supabaseと非同期に同期。オフラインでも自分の投稿・チャンネルは保たれる。同期は「気づかないうちに行われている」体験として実装した。
— Chrome Extensions / 生態系の拡張
— Ateli.er Clip
URLを貼るだけで登録
YouTube / SoundCloud のURLを貼り付けるだけで楽曲登録。OGP自動取得・サムネイル表示。「音楽を見つけたその瞬間に、自分のチャンネルへ」という流れを実現した。
— Ateli.er Player
Kindle Fireで「常設の中庭」を
ambient受動再生専用ページ。Kindle Fireなどを常設端末として使い、部屋に「中庭を置く」という体験を可能にした。音楽がインフラになる設計。
— Activity Graph
GitHubスタイルの音楽活動記録
GitHubの草グラフを参考に、投稿履歴を視覚化。自分の音楽活動が「積み上がる」記録として残る。継続の動機を設計に組み込んだ。
05 — Result
「届けたい体験」(音楽と共に在ること)と「届いていた体験」(発見と消費)のズレを揃える——体験翻訳のプロセスをプロダクト設計に適用した結果、音楽との関係が根本から変わるプラットフォームが生まれた。
共存COEXISTENCE
音楽を「発見・消費」から「場所・共存」へ再定義。中庭(Courtyard)で誰かの音楽の横に静かに座れる体験を実装した。
公LIVE
atelistudio.com 公開中。Chrome Web Store に Ateli.er Clip・Ateli.er Player の2拡張を公開済み。誰でも登録・利用可能。
証PROOF
アルゴリズムなし・ローカルファーストで、静かな音楽体験が成立することを実証。「削ぎ落とすことが体験を豊かにする」の証明。
— Result / この翻訳により
— 01
音楽との関係が変わった
「次の曲」を探さなくなった。誰かのチャンネルに接続し、そこにいるだけで良くなった。消費から共存へ。
— 02
「場所」という概念が機能した
チャンネルを「場所」として設計したことで、ユーザーは「訪れる」「戻ってくる」という行動を取るようになった。
— 03
体験翻訳の実証が完了した
「音楽を発見させる」から「音楽と共に在る」への翻訳が、実際のプロダクトとして機能することを確認した。
— Studio
木下スタジオ(Kinoshita Studio)は、滋賀県・琵琶湖を拠点に活動するデザイナー木下貴博のスタジオです。UX/UIデザイン・アートディレクション・個人開発まで、一人で設計から制作・ディレクションを一貫して担当します。
Ateli.er は 音楽体験の翻訳プロダクト です。「音楽を消費する体験」から「音楽と共に在る体験」への翻訳を、Webアプリとして実装しました。滋賀・琵琶湖から、静かな音楽の場所を設計・開発しています。