文字は届くのに、危機感が届かない。この欠陥を設計で埋めるために、滋賀県の熊出没情報をリアルタイムに可視化するアプリ「BEAR RADAR」を実装している。既存の行政発表は、出没を「テキストと住所」でしか届けていない。それは正確な情報ではあるけれど、身を守るための体験にはなっていない。だから私は、情報をレーダーへ翻訳することにした。
この研究を一言でいうと──住所で届く熊の出没情報を、距離と方角で身体が察知できるレーダーに翻訳する実験。
出発点:情報はあるのに、危機感が届かない
「〇〇町××付近で熊の目撃情報」——自治体の発表は、たいていこの形だ。住所を読み、頭の中で地図に置き換え、自分との距離を計算する。その変換を、見る側に丸投げしている。結果として、文字は届いても「自分に迫っている」という感覚は届かない。情報であって、体験ではない。ここが危うい。
設計の核心:「知る」から「察知する」へ
BEAR RADAR は、熊の位置を、住所の代わりに半径・方角・時刻で示すレーダーUIに変換する。自分を中心に、どの方向に、どれくらいの距離で、いつ出たのか。地図を読む作業を挟まず、画面を一目見た瞬間に身体が反応する。「知る」という認知の作業を、「察知する」という感覚の体験へと翻訳することが、このツールの核心だ。
住所は読ませない。距離と方角で「迫っている」と感じさせる。
——情報を、感覚に変換する。
質感:装飾ではなく、注意喚起のための設計
ナイトビジョン風のビジュアル、スキャン音、ALERT ACTIVE という状態表示。これらは見栄えのための装飾ではない。緊張感と注意喚起を「感じさせる」ための質感設計だ。淡々と並んだ文字では生まれない警戒のスイッチを、色・音・動きで身体の側に入れる。質感は、行動を促すための機能として置いている。
結論:実用ツールの質感は、安全に直結する
実用ツールにおける体験の質感は、安全に直結する。同じデータでも、ただ表示するか、危機として感じさせるかで、人の行動は変わる。一目で察知できることが、結果として誰かの身を守る。体験翻訳は、実用の中心にある。BEAR RADAR はそれを確かめるためのプロトタイプだ。
あなたの住む町の出没情報、住所を読んで自分との距離がすぐに浮かびますか。