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視覚の体験 — Print Physics

インクは減る・版は動く・紙は平らでない

2026.10 Tool / Print

何回もスタンプすると、インクや塗料は掠れていく。この掠れは、スキャナーでは出せない。スキャナーは紙を押さない。ガラスの上を横から読んでいるだけだ。ならば、上から塗料で紙に刷り、刷るたびに掠れていく道具を組む。それが 捺 NATSU だ。

この研究を一言でいうと──紙の地形と版の凸の引き算で、刷るたびに掠れていく版を作る記録。

捺 NATSU で同じ版を刷った1回目、3回目、5回目、10回目を並べた画像。回を重ねるほど字が欠けていく
— 同じ版を10回刷る(捺 NATSU の出力)

芯は1行

インクは減る。版は動く。紙は平らでない。

かすれは乱数ではない。2つの地形の引き算で出る。紙の目の山と谷、それと版の凸。インクが薄くなるほど、紙の山にしか届かなくなる。

掃 SOU との違い

先に作った掃 SOU も、刷りの道具だ。違いはそのまま設計になった。

掃 SOU捺 NATSU
何が起きているか光が読む。触れていない物が触れる
かすれの出どころ焼き・にじみ・二値。光学インクが減る・紙の山。物理
分けてあるもの版と現像版・インク・紙の3つ
同じ操作を2回同じ絵(種つき)2回目は薄い。状態が残る
やり直し何度でも現像し直せる減ったインクは戻らない

いちばん大きい違いは、前の1枚が次に効くこと。

盤の上にあるもの

3つを別々に持つ。1枚の絵に混ぜた瞬間、この道具は成り立たなくなる。

「捺す」1回の手順

これで「3回目から急に掠れる」が勝手に出る。カーブを描いて作らない。②のインクの厚みが芯だ。厚いほど紙の谷まで届く。薄くなると山だけに乗る。

10回刷った

既定の設定のまま、インクを足さずに10回刷った。字は既定の ABCDE〜XYZ。

捺 NATSU の1回目。ほとんどの字が濃く刷れ、何字かだけ薄い
1回目
捺 NATSU の3回目。字の片側が欠けはじめる
3回目
捺 NATSU の5回目。紙の目が出て、いくつかの字はほとんど消える
5回目
捺 NATSU の10回目。全体が灰色に掠れ、字の片側が欠けている
10回目
10回ぶんの乗った量の棒グラフ。83、51、56、66、38、40、18、30、13、32パーセント
— 回ごとの「乗った量」(道具の表示)

道具が出す「乗った量」は、1回目 83%、10回目 32%。まっすぐには減らない。上からの圧は全体に均一にはかからないので、回ごとに違う圧の場を作ってある。圧が抜けた所は、インクがあっても刷られない。字の片側がすっぱり欠けるのはそのためだ。

字ごとの差も、一様には付けていない。最初の仮説は一様な差だった。結果は、全部の字が同じだけ薄くなり、実際の刷りの挙動から外れた。差を3乗で付けると、ほとんどの字は満タンのまま、何字かだけが大きく減る。

つまみにしないもの

「押す」と「インクを足す」は、つまみにせずボタンにした。押すたびに1回刷れる。途中でインクを足せるのも、本物と同じ。何回刷るかは、押した回数で決まる。刷ったあとも、つまみを動かすと同じ回数で刷り直すので、全部のつまみが効く。

物差し

なぜ作ったか

日本語でかすれたクラシックをやると、筆書体になって和に転ぶ。古さは書体で出さず、版の側で出す。題字はゴシックのまま、刷りだけが古い。この道具はその版の側を受け持つ。書体を替えずに汚す話は 題字はインクの側を汚す に書いた。

あなたなら、何回目の刷りで手を止めますか。

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