映画ポスターの題字に、古さや荒さを足す。書体を替えてそれを出すと、日本語はすぐ「和」か「古風」に転ぶ。だから字はヒラギノW9のような太いゴシックのまま置き、インクの側と刷りの側だけを壊す。2026年9月25日、3つの題字でこの方法を検証した記録。
この研究を一言でいうと──書体は替えずに、インクと刷りの側だけを壊して、題字に古さを足す方法。
題字とは何か
題字は、その作品1点のための字だ。映画のタイトル、本の書名、展覧会名。その作品にしか使わない。会社や商品の顔として何年も使うロゴとは、ここが違う。
自分の作品を並べて分けたとき、判定は1つの問いで済んだ。「これは何の名前ですか」と聞かれて答えられるか。答えられれば題字。答えられなければ、字そのものを作った実験、つまり作字になる。歌詞を切り貼りして組んだ字は、読めても作品の名前ではないので作字に入れた。
考え方:傷んでいるのは字ではなく板
古びた英字の看板を観察すると、書体はきれいなまま、傷んでいるのは板の方だ。題字も同じで、字の形はそのまま、インクと刷りだけを壊す。
① 筆で掠れさせる
版面全体が筆跡でできたポスターなので、題字も同じ筆で描いたように見せる。手は3つ。
| 中身 | 数字 | |
|---|---|---|
| 毛のすき間 | 字ごとの筆の向きに沿わせる。横棒は横に、縦棒は縦に掠れる | 削れ 17% |
| 手の揺れ | 輪郭をなめらかな雑音でよろけさせる | 最大 2.6px |
| 終わりほど掠れる | 右へ行くほど、乾いた所ほど飛ぶ | 左は薄く、右は強く |
全部を同じ角度で掠れさせると、版ズレか印刷不良に見える。だから先に、その画素がどちらへ走る画なのかを出してから、その向きに毛を並べた(構造テンソル)。擦り傷5本だけは、版面の他の筆と同じ −14° に揃えた。これで同じ筆で描いたように見える。
いちばん効いたのは、輪郭が1〜2pxよろけることだった。これが無いと、どれだけ掠れさせても「フォントに加工した」ように見える。
② 横に引っ掻く
4回の検証で決めた。外れた理由が、そのまま決め手になっている。
| やったこと | どうなったか | |
|---|---|---|
| 1回目 | 細い点々にした | 印刷の網点に見えた。引っかきは続いた線 |
| 2回目 | 太くして数を増やした | 題字が潰れた(削れ34%、真ん中の AT が消えた) |
| 3回目 | 斜めに大きく | 横の方が合うと判断 |
| 決定 | 横に走る線、端だけ細い | 読めるまま傷だけ残った(削れ10.9%) |
中身は、横に走る長い線11段、往復して消そうとする走り書き5本、±14°の短い突き10本。全部を横にすると版ズレに見えるので、縦を3本だけ混ぜた。
線を字の上に重ねるだけだと、汚れにしか見えない。同じ1本の線が、字の上では白を削り、字の外では黒い引っかきとして続く。傷が字を貫いているので、引っ掻かれたように見える。
×印も1箇所だけにした。全体に×を打つと「中止」と読めてしまう。斜線を主にして、交差は C と R の間だけ。
③ 帯でズラす(色ズレ)
③は傷をつけない。印刷の見当ズレを起こす。字を横13本の帯に割り、7本だけを左右に最大9pxズラした。ズレた縁には、シアンを左へ3px、マゼンタを右へ3px、薄く置いた。
同じポスターの下には②の SCRATCH がある。傷と刷りの失敗なので種類はぶつからない。動きはどちらも横なので、同じポスターの言葉に聞こえる。色も版面にもうある色から取り、新しい色は足していない。
③を Photoshop のつまみにした
あとから何度でも直せるように、つまみだけで動くPSDに組んだ。字を R・G・B の3枚に分け、それぞれに同じ帯のズレをかけて、スクリーンで重ねる。3枚が揃う所は白に戻り、ズレた所だけ色が出る。これが版ズレの正体だった。
3枚は同じスマートオブジェクトの複製なので、中の字を1回打ち替えれば3枚とも変わる。ズレはスマートフィルターの「置き換え(ずらし)」でかけているので、焼き込まれない。手で帯を切ると13本×3色で39レイヤーになり、直せなくなる。
- 128のグレーは動かない。明るいほど左へ、暗いほど右へ。
- 水平比率10のとき、128から10離れるごとに1pxズレる。いまの地図は38〜198なので最大9px。
- 帯を細くするとグリッチ寄り、太くすると版ズレ寄りになる。
- 垂直比率は0のまま。上下に動かすと字が読めなくなる。
確かめ方
題字は画面で見て良くても判断にならない。4つで確かめている。
- 最小サイズ 実際に使う一番小さい大きさで出して、読めるか。これが一番効く。
- 白黒 色を抜いて、形だけで成り立つか。
- 隣接 写真や他の文字と並べて埋もれないか。
- 反転 白地と黒地の両方で見る。細い線は黒地で太って見える。
あなたが汚すなら、筆で掠れさせますか、引っ掻きますか、それとも刷りをズラしますか。