Top / 体験研究 / Japan, not Wa
視覚の体験 — Japan, not Wa

和ではない日本

2026.10 Color / Type

昔のストリートスナップや、洋楽の形式で日本語を歌う日本のバンド。日本がはっきり出ているのに、和ではない。この領域は言葉にしにくい。言葉と数字に落とせば、色や書体を選ぶときの基準になる。だから色・書体・空気を測った。

この研究を一言でいうと──和の記号を1つも使わずに日本を出すための条件を、色と書体と空気の数字にした記録。

和ではない日本の見本板。実測で出た色9つ、キーカラー5つと使わない和の3色、街にある書体7種の組見本
— 見本板:実測の色・キーカラー・書体

和は記号で書ける。日本は条件でしか書けない

和は、外に向けて差し出すために選ばれた記号の集まりだ。朱、藍、墨、金、筆、紋、余白。選んだ人がいて、一目で伝わるように作られている。

私が撮りたいのは、選ばれずに残った方だ。誰も「これが日本だ」とは思っていないのに、日本でしか成り立たない状態。言葉にしにくいのは、記号を探すからだ。こちら側には記号が無く、条件しか無い。

和和ではない日本
定義のしかた記号(朱・筆・紋・富士・余白)条件(光・密度・湿り・姿勢)
選んだ人いる誰も選んでいない
向き外へ差し出すただそこにある
見た人の反応「日本だ」と分かるそうとは言えないが、他の国ではない
引き算している(余白)していない(電線・標識・室外機)

だから和の記号を1つも使わずに日本を出す。朱を1回置いた時点で、和に寄ってしまう。

日本を成り立たせている5つの条件

色:街を撮ると暗い緑が地になる

手元の素材7点を、色のまとまりごとに数えた。平均にすると色が混ざって消えるので、まとまりで見る。

素材彩度(中央)明度(中央)多い色相
蛍光灯の屋内47.628.6緑31% / 青緑30% / 赤22%
街角27.254.7黄緑46% / 赤22% / 橙13%
曇りの屋外21.656.1緑37% / 赤26% / 青緑15%
(対照)整ったスタジオ写真23.773.3赤91% / 緑0%

街を撮ると、緑から青緑が3〜6割出る。スタジオで撮ると赤しか出ない。緑の出どころは、蛍光灯、樹、苔、コンクリート、自販機だった。

#03110B蛍光灯の夜 39%
#39452E街角の地 28%
#516353曇りの地 24%
#E2EBEE蛍光灯の白
#E2E2E8曇り空の白
#D9D8DB冷たい白
#9E7C63にごった肌・錆
#86735B木
#ADA59Fアスファルト

朱 #E0301E、藍 #1B3B6F、金 #C8A85A は、7点のどれにも出てこなかった。「和ではない」という見立ては、数字で裏付けられた。

キーカラー5つと、使わない3つ

#E4EDE9蛍光灯の緑白(主)
#2E3A2C苔緑(地・黒のかわり)
#D8362A看板の赤(1点だけ)
#8A8A86アスファルト(中間・文字)
#5FA89A蛍光の青緑(アクセント)
#E0301E使わない:朱
#1B3B6F使わない:藍
#C8A85A使わない:金

看板の赤と朱の差が、そのまま和と日本の差になる。朱は塗られた色で、艶があり彩度が高い。看板の赤は印刷されて褪せた色。迷ったら褪せた方を選ぶ。

書体:日本語は街にある書体、欧文は規格の書体

明朝と筆は使わない。そこから和が入ってくる。例外は新聞や週刊誌の見出しの明朝くらい。

役書体どこにある字か
見出し(日本語)ヒラギノ角ゴシック W7〜W9看板・駅・役所
チラシの見出しKotonode Condensed ExtraBold特売・のぼり(かな専用)
値札・時刻表Senobi Gothic縦長のゴシック
標識・工業Makinas 4 Square角が平ら
画面・時代DotGothic16 / PixelMplus90年代〜00年代の画面・ポケベル
数字・欧文DIN Bold / Frutiger道路標識・空港
本文ヒラギノ角ゴシック W3これ1つで足りる

日本語と欧文を混ぜて組む。欧文だけだと外国のポスターになり、日本語だけだと和に寄る。混ざっている状態が日本に見える。

空気:曇りの街の値に寄せる3手

曇りの街の実測値(彩度21.6、明度の中央56.1)に、整ったスタジオ写真を寄せた。Photoshop で3手だけかけている。

手値Photoshop
1 中間調を落とすガンマ 0.60レベル補正の中央。黒は持ち上げない
2 中間調を緑青へR −10 / G +9 / B +5カラーバランス(中間調)
3 彩度を落とす×0.85色相・彩度 −15

結果は、彩度23.7が25.0に、明度の中央73.3が57.3になった。目標とのずれは +3.4 と +1.2。

いちばん大事なのは、四隅を暗く落とさないこと。それまで組んできた26本のポスターの型は、全部四隅を落としていた。映画ポスターの作法だ。蛍光灯と曇りは上から均等に光が来るので、影ができない。この方向では落とさない。

この値だけで1枚組んだ

上の値以外は使わずに、ポスターを1枚組んだ(1240×1600px)。地は #E4EDE9、暗い色は #2E3A2C、赤 #D8362A は1点、青緑 #5FA89A は線1本。書体はヒラギノW8、DIN Bold、DotGothic16、ヒラギノW3・W6。空気の3手は全部調整レイヤーにして、あとから回せるようにした。

キーカラーだけで組んだポスターの下部。看板の赤で大きく23:20、その下にヒラギノで各駅停車 普通 二番線、DotGothic16でポケベル 1999
— 27 灯の型(下部の文字組み)
明るさ
中央100.6
四隅232.8
差+132.2(四隅の方が明るい)

四隅を落とすと、四隅は中央より暗くなる。ここでは逆に出ているので、落としていないことが数字で確かめられた。

1回目は外した。写真を版面いっぱいに置いたら、地の緑白が1画素も見えなくなった。測った色が出ない。そこで地の列を左に残し、その列を文字で埋めた。余白を取らないことと、地を見せないことは別の話だった。

5つの条件は、誌面の形で組むと揃う

5つの条件は、1枚に絞るポスターより、大中小の文字と写真を同じ面に詰める誌面の形と相性がいい。外のものを日本語で読み替える(条件1)。人を構えさせず、影を潰し、背景を整理しない(条件5・2・3)。音楽、映画、美術、店を同じ面に並べる(条件3)。次の検証は、ポスターではなく誌面の形で組む。

この数字の限界。色の値は手元の素材7点から出したもので、母集団が偏っている。素材を増やして測り直せば、値は動く。次はそこを測る。

あなたが「日本だ」と感じるのは、どんな光や密度の中ですか。

— 他の研究を読む
← 体験研究の一覧へ 全ての設計事例を見る →